ドキュメンタリーフィルム 「LAND」



ドキュメンタリー映画『LAND』が ArtSpeaksOut 映画祭 2025 に選出されました。今月開催されるCOP30の期間中、全世界に配信されます。
この短編映画はアフリカとアジア出身のアーティストの目を通して「土地」に対する従来の認識に問いを投げかける。「土地」は文明にとって永遠で有益な資源とみなされてきた。人類は何世紀にもわたって「土地」を拓き、支配してきた。しかし今、人間の活動によって「土地」が脆弱化し危機に瀕している。ガーナのフォトグラファー Nii はアフリカの大地が西洋に奪われていくという自身の経験を通して、私たちが生きていく上での根源的な「土地」の意味を問い直す。一方日本の書家中嶋は、東日本大震災と福島原発事故の経験を踏まえて「土地」の持続可能性について考察する。二人はそれぞれの作品によって既存の常識を解体しようと試み、深い気づきを得る。それは、『私たち人間は土地から生まれ、そして土地に還っていく』という認識である。
アーティスト: Nii Obadai/中嶋宏行
監督: Martin Cooper
撮影: Adrian "Uchujin" Storey
ArtSpeaksOut は、ikonoTV(ドイツ・ベルリン)が主催する環境問題をテーマとした映画祭です。国連気候変動枠組条約(COP)の期間中には選りすぐりの作品を上映してきました。この映画祭は10年前にパリで開催されたCOP21を起源とし、映像芸術を通して喫緊の気候変動にかかわる対話を広げることを目的としています。気候危機は深刻化し、これまでのCOPでの多くの取り決めが未だ果たされずにいます。こうした中で開催される ArtSpeaksOut 映画祭 2025 はブラジルのCOP30期間中、世界中のアーティストの力強い声を発信します。選出された作品は11月10日~21日、ikonoTVで全世界に配信されます。
映画中のコメント和訳
Nii Obodai
ヨーロッパから見たアフリカの物語は無から始まる。我々という存在の否定だ。この数世紀のアフリカの歴史を見れば、我々の物語は大地とともにあり続けてきた。そこには先住民、すなわち土地の守りびととしての我々の物語だけでなく、その後のヨーロッパや極東からの介入者による土地の物語もある。我々の土地は非常に豊かで広大だったので、介入者の彼らは我々を支配され、抑圧される存在へと追い込んでいった。いつも我々は土地から土地へと渡り歩いてきた。我々は大地とともに暮らし、大地から食を得る。土地と水は暮らしに欠かせないものだ。そこに我々がいようといまいと、大地の姿がすべて我々の歴史を物語っている。そしてもしそこに我々がいれば、もし我々がその土地に触れ、かかわれば、常にそこに我々の存在の跡が残る。入植の歴史に立ち帰れば、あらゆるものが大地から来ていることが分かる。あなたがどこにいようと問題ではない。それはアフリカだけの話ではないのだ。今、我々はリサイクルについて話す。特に気候変動が進むにつれ、これは我々が建物を作る上で環境のために有効なことだ。大地より有用なものは他にない。
その証明はこの写真の中にある。私が初めてブルキナ・ファソを旅した時、このモスク群に出会った。砂丘の30kmほど手前、私はこのバニという村に着いた。村を取り囲んでいる小さな丘に心を奪われた。文字通りそれぞれの丘にひとつずつモスクが建っていた。この巨大な建造物は大地の土から作られ、美しいだけでなく凛とした孤高の姿を私に見せていた。ここは信じられないほど暑い。そんな過酷な環境で生きる彼らの工夫、そして彼らの存在自体を讃えるために時間を取り、あれこれ手立てを考えるのは私にとって素晴らしいことだ。
私はここにこそ西洋が理解し得ていない環境への知恵があると思っている。優位性というものの見方を当然視する時、我々はとかく他者の真実を否定しがちである。我々が理解できていないこと、それはそこに大地とともに偉大な知恵があるということである。これに原始的だとレッテルを貼ること、それはとても愚かなことだと我々は今気づき始めている。
中嶋宏行
いつも自然の世界に惹かれてきた。アーティストとして自然をテーマに作品を作り続けてきた。土、花、樹、風、水….。風景と一体になり自然の中に身を置くことの楽しみを実感する。きっと誰もが大地は不動だと考えているかもしれない。しかしここ日本、いや少なくとも自分にとって大地は確固たるものではない。それは常に動いている。富士山は日本を代表し、日本美のシンボルとみなされる。富士山はこれまで何回も噴火を続けてきた。最後の噴火は今からおよそ300年前、そして今も噴火の可能性を秘めている。確かに富士山は日本のシンボルだが、同時に巨大地震のリスクをも象徴する。日本では年に千回以上の地震が起きている。今まで経験した中で最も大きな地震、東日本大震災は2011年に起きた。およそ2万人もの犠牲者を出し、日本人にとって忘れられない大惨事となった。震災の後、被災地への寄付のため作品を制作することになった。だが地震はそれだけに終わらず、大津波による福島原子力発電所の事故を誘発した。あれから13年が経った今も深刻な問題が残されている。年に千回以上の地震が起きる日本には、今もたくさんの原発が稼働している。これは大きな矛盾ではないのか。
これが最近の作品。日本の国旗は白地に赤い丸、太陽を模している。だが自分にとってはこちらの方が今の国旗にふさわしいように思える。太陽は日食の時、月に隠される。この作品では墨、すなわちカーボンが月の代わりに覆い隠している。我々が今置かれている状況、地球温暖化を考えると実に示唆的だ。
人間は土地から生まれ、そして土地に還っていく。我々はそれを大切にしたい。